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2007.03.28

廃屋

未完成。未完結。未遂。
「未来は常に希望である。」こんなことを言った詩人が居た。

そんな事は正直どうでもよかったんだ思う、ただ彼は今の自分にとって未来が常に希望でないと生きていけなかったのじゃないだろうか、明日が絶望だけなんて信じていたら、狂っても狂いきれないだろうからそんな事を言ったんじゃないだろうか。
今、彼は何を考えて重くて黒い石の下で横になっているのだろう。





今日も寝ないまま朝を迎えた、外ではカラスたちの討論が随分と進んでいるようだ。
「ピリリリリ。」
今日も規定時間通りに時計が時間を告げる。最近は寝てもすぐに起きてしまうのでつけていても意味は無いような気もする。
いつもと同じように朝の支度をすませ、朝食は昨日の夕食の残りのレバニラ炒めを温めて食べた、口臭が少し気になるが一人暮らしの上に人付き合いがほとんど無い私にはあまり関係の無い事だ、そしていつもと同じように玄関の扉を開けて外へと出て行く。
別に何も変わる物もない、やるべき事をただ淡々とこなしていく、それだけで生活が保障されている人たちはそれがさも当たり前であるかのように毎日自分の手の内にあるカードを切り続けている、私の場合はそうでもない、個人的趣味と知的好奇心、この二つだけあれば私が動く理由なんて十分だ。

もう長月の終りの寒空の下、我が下宿から2時間ほど歩いたところが今日の仕事場所、人の気配がまったくしない路地裏のさらに奥、日光がその場所だけを照らしていてそれなりに幻想的といえば幻想的な場所である。
今日の場所には先客が居た、先客と言っても別に私達と同じような変人ではない、むしろ人の居ないところが相応しいと言えなくも無い猫であった。それは純白と言ってもいいほど綺麗な毛並みをした猫だった、彼(あるいは彼女)はこちらを向くと

「あまり荒らすなよ。」

とでも言いたげな顔をして去っていった、別に私はそんなに漁るだけ漁って帰るという野蛮な真似はしない、先客には敬意を払わなくてはならない、という私達のルールもある――私が勝手に思っているだけだが。
そんな一人で問答を軽く行い、綺麗に屋根が無くなった廃屋の中で私は仕事道具を丁寧に鞄から出していく。
銀製の鋏、白鳥の羽、真珠の粉、まさにオカルトに相応しいそういったものだ、ちなみに粉は真珠じゃなくても小麦粉でも何でもいいのだが

「こういうものには金をケチってはいけない。」

との教授からの鶴の一声があり真珠を仕様している。
たまに粉を小麦にして差額を頂いたりしているが別段問題は無いだろう、用は結果が大事だ。
道具を出し終わったところでおもむろに周りの空間に粉を撒いていく、できるだけ丁寧に。隙間が無いように。大体自分の肩よりも少し高い位置から周りに散布していく、ここで丁寧にやる必要も無いし静かにやる必要も無いがやはり博士からのお達しなので一応従っておく。
大事なのは粉が上から下に落ちる事だ。
少し粉が落ち着くのを待ち、目当ての物を探しにかかる。
目当ての物はすぐに見つかった、存在する時はすぐに見つかる、無いときには当然見つからない、当たり前の真理。
今回見つかったソレは久々の収穫だった、粉を撒いたはずの所に一部だけ粉がかかっていない穴が開いている、それが存在すると言う標識である。
次はその上に同じように粉をかけていく、自分の胸の辺りで粉が消えているのを確認し、私はその周りを慎重に鋏で切り取っていく、なんとなくこんな作業をしていると厳かな気分になってくるから不思議な物だ。
そしてまわりを全て切り取った辺りで鞄から黒い箱を出し、中へソレをしまう。
なぜか鋏で切り取らないと箱には入ってくれない、奇妙な物には奇妙な法則が付きまとうのもこれまた必然なのか、それが必然なのであれば奇妙な私に奇妙な仕事があるのもこれまた必然なのだろう、自分達は所詮
変人である。

ともあれ仕事は終わってしまい、提出は明日までにすればいい、となれば私は家に帰って早々と惰眠を貪りたいと提示して帰る事にしよう。
やはり2時間ほど歩いて家についたのはまだ13時を少しまわったくらいだった、体は合計4時間強の寒さとの戦いのおかげで冷え切ってしまっている。
寒さと眠気のせめぎ合いは寒さに軍配が上がったらしくとりあえずシャワーを浴びることに脳内内閣では決定された、寒い。
鞄をベッドの上に置いて共同で使用している浴室へ向かう。
シャワーからとめどなく出る温水の温度をかなり高めに設定にしての湯浴みはなかなか気持ちが良かったがさすがに最初は熱すぎた。
体の一部がヒリヒリと痛みを脳へ伝えている中シャワーを終えてベットへ直行する、姿は下着のみのシンプルにしてチープなスタイル。
布団に潜り込んだ途端に今までどうやって抑えられていたんだと聞きたいほどの睡魔さん達が私を攻め立てる。


あ、負けた。





起きた時には外はもうすっかり日が暮れていた、我が部屋に唯一ある時計様に時間を拝見させていただくともう19時を越えていた。
目覚ましにブラックコーヒーを淹れる、一口飲んで体に熱気が染み渡っていくのを確認し、頭がはっきりした辺りでやっと鞄から箱を取り出す、しばし眺めた後に自分へ問いかけてみる、

「Mr、生きてるかい。」

「随分と長い間ほおって置かれた気がするよ。脳の筋肉が固まって石に
なっちまうかと思ったぐらいだ、やる事が無いので一人でひたすらに君の書庫を整理していたよ、かれこれ2日?それとも1週間?まあ概念に時間はあまり関係ないがな。」

「教授に言われた分はこれで全てだな?」

「これで必要な分はそろっているはずだろ、それにしても俺のボケにきちんと突っ込んでくれよ、突っ込みの無いボケはただのおかしい人だって俺が何度も何度も言ってるじゃないか、とりあえず手始めに脳に筋肉は無い辺りから突っ込んでくれるかな。」

「さて、それじゃ夕食でも作るか。」

「お前は本当に流すのが上手くなったな、むしろ高レベルの無視かもしれないが一応ポジティブに受け止めることにしよう。」

脳内で行われていると思われる一人漫才に付き合うのも面倒だ、その上に空腹だと体の方から指令を出されているんだ、一応従うことにしておこう、長いものには巻かれろ、流れに逆らうな、これ私の人生論也。
ちなみに脳内でひたすら話している彼はもう一人の私と言うべきなのか、何と言うべきなのか、とりあえずもう一人の私にして相方のMrである。




私とMrの奇妙な共同生活が始まったのは、私はまだ思春期でどうしようもなく誰かに恋心を抱いていた時期の事だった。
なぜか知らないが私の脳内にはもうひとりの誰かがいて、私は唐突にそれを理解させられた、ちなみに恋は私の一方的な片思いで終了した、私が好きになった人には彼女が居たためである、よくある話だ。

「よう、何でか知らないが今日からよろしく頼むよ兄弟。」

午後9時20分、やっても意味があるのかわからないような授業を受けている中に急に耳にそう囁いてきたのだった、いきなりの常軌を逸した展開の為に私はありきたりな手を親に施され精神病院に通うことになり、よくわけのわからない薬を大量に飲む羽目にもなった。(しかも1ヶ月で5万円もかかったと親が言っていた)
結局それが無駄だと理解したのは2年後の事だった、医者がどんなに手を尽くしても、どんな薬を飲まされようとも頭から聞こえてくる声は止まらなかった。
ある日、半ば諦めのつもりで脳内の主に話しかけてみた。

「なあ俺の頭の中の人よ、あんたはなんで俺なんかの中にいるんだ?」

返事が返ってくる事なんて宇宙人が自分に向かってピースサインを向けてくるほど期待していなかったが、予想とは裏腹にすぐに返事は返ってきた。それもかなりのハイテンションで。

「俺にもわからんよ、気づいたらお前の頭の中にいただけさ、そしてやっと俺の話に耳を傾ける気になったのか、一々こんな風に医者にまでかかって親の負担を増加させるだけならばさっさと俺の言うことを聞いておけばいいのに、お前も馬鹿だなぁ、ってお前を馬鹿と言ってしまったら自分自身で私は馬鹿宣言してることにならないか俺!?」

いきなり返答に困ったがとりあえず落ち着いて一般人らしくボケに突っ込む事にしよう。

「いきなり人を馬鹿呼ばわりされても困るし別に俺は馬鹿でも構わないぞ、馬鹿も馬鹿で楽しいだろ。」

先ほどの文に少し訂正を入れて置こう、私も少しは変人だ――申し訳ないがさらに訂正だ、私は変人だ。これで大丈夫。

「お前もなかなかに面白い奴だな、さすが俺、そしてお前も誇っていいぞ、お前が俺である事をな。」

とりあえずこんな感じの脳内漫才が繰り広げられてお互いによくわからないまま結論が出た。――少しは声に出して一人で突っ込みを入れている水銀の毒で頭がイカレている帽子屋の様だったかもしれないが。
結論は簡単なこと、とりあえず二人でこの状況でさほど問題は無いので、親の負担を軽減させるためにも精神病院に通うことを止めて奇妙にも程があるだろうと一般人からは言われるような共同生活が始まったわけである。

「そういや、お前の事は何て呼べば良い?」

「さてね、俺は自分自身に名前があるとも思わないし、ある意味お前が俺だから、適当にMrとかそこら辺で読んでくれて構わないぞ。」

「了解したMr、それでは今後ともこの奇妙な生活を続けていく二人に乾杯と行きたいところだが、生憎私達はまだ未成年である。よって現在私が買える最もクールな飲み物、Dr,Pepperで乾杯しよう。」

「俺たちの明日に乾杯!」

ふたりの生活が始まったのはそんな感じの話だ、特に聞いて面白い物じゃない、そしてなんともよくわからない話である。
さらに付け加えるとこの時の私は非常に馬鹿であった、自分の過去の消してしまいたい過去ランキングの上位に食い込んでいるほどに。








私達の世にも奇妙な共同生活が始まってもう6年もたった頃の話に戻ろう、世間では一流の大学と言われているような所に私達は居た、
入試はとても楽であった、自分は理系、相方は文系、お互いに得意教科だけ学んでいたらよかったからである。
私はひたすら数学と化学、生物、物理と好きな教科を学び続けられて最高であった。彼も好きな教科をやれて普通の受験生が行う受験勉強に比べれば何倍も楽であるのだろう。
ふたりでの話し合いの末に大学は理系の大学へ進むことになった、文系の大学へ行っても私達が裁判所に勤務している姿などは想像も出来なかった、そしてそんな仕事は単純に嫌なので理系になった。なんともシンプルな話。


大学では一応真面目に講義を受けて、普通の人間であろうと心がけていたが私達二人は所詮変人である、気がつくとアウトロー街道をふたりで進んでいるという結果になっていた。
1年が過ぎ、2年が過ぎ、一定以上の交友を持つ友人は一人も出来ないまま過ごしていると

「あー、最後にお前、後でちょっと私の所へ来い」

そう講義の終了間際に初老の教授が言った、誰に?、この場合私しかいないだろう。
授業の残骸を片付けから教授の所へ向かう、教授の部屋は構内の東側の1番端にあるのでほとんど人影もない、というかこの部屋を知っている人がまず少ない、そして私は何故この部屋を知っているのかと聞かれると、「Mrが知っていたから。」としか答えようが無い。

「失礼します。」

ドアをノックし部屋へ入る。

「いらっしゃい、まあそんなに硬くならなくていい、別に君に説教をするつもりも無ければ進級についてなんら話をする訳でもない、とりあえずそこの席へ腰掛けたまえ。」

部屋に入り私を確認すると矢継ぎ早にそう言われた。
この教授、構内の講師陣では1,2を争う変人である。実験は何をしているかわからない、いつも格好が変わらない、家族はいるのやらいないのやら、基本的に講義以外で話しているところを見たことが無い、なんとも怪しい。
そんな教授に呼ばれてしまう私達はやはり例に漏れず変人なのだろう、類は友を呼ぶ。
なんにせよ席に座れといわれたのだから言われた通りに椅子に腰掛ける、すると教授までが椅子の前に座ってきた。
一体何の話をさせられるのかとほんの少しだけ残っている私の良心のようなものが警告を鳴らしているがそれもあまり信用の置ける物でもないのでほおって置いた、一般常識に捕らえられていても何も変わらない、だから変人と呼ばれているのだが・・・・・・。

「さて、話というのは簡単なことだ、私の実験に少しばかり力を貸してほしい、手伝いの間の講義は出席しなくても結構、さらに実験にかかる経費は一切がこっちで経費として処理しよう、どうだ、協力してはくれないかね。」

「あの、スミマセンが教授、本題について何も触れていないのですが一体どんな実験をするのでしょうかね。」

「・・・・・・やはりそれを話さないといけないのだろうな、君をこの大学の生徒で一番の変人と見込んでの頼みだ、とりあえず百聞は一見にしかずと言う事だし、これを見て欲しい。」

教授はそう言うと部屋の奥の金庫からなにやら黒い箱を取り出してきた、そしてソレを開けてみると。
何も無い、まったく何も無い、この教授はそろそろ痴呆の気があるのかと心配になった辺りで

「これは今の段階では何も無いがこの粉をかけてみるとどうだ。」

粉を箱へ振り掛けてみる、特に変化は起こらなかったように思えたが、よくみると箱の下に粉はなくどこか虚空へ消えてしまっている。

「見ての通りこの箱の中にはある物が入っている、正確にはある現象とも言えるものなのだが、君にはこの箱の中の現象を集めて欲しいと思っている、条件はさっき言ったとおりだ、集め方は簡単至極、粉を空中に撒いて地面に粉が無い場所があればそこにコレがある、どうだい、やってはくれないだろうか。」

いきなりこんな事を言われても困ると私が思った瞬間に

「やりましょう。」

とMrが私の意見を無視して答えてしまった。

「そうか、君ならやってくれると信じていたよ、これは必要な道具だ、一通り揃えてあるので今週末までに1個は見つけてくれると嬉しい、詳しいことはその道具の中にノートが入っているのでそれに書いてある通りだ。」

話が私を置いてどんどん進んでしまう。

「君がこの実験を承諾してくれたからこそ話したい事が一つある。」
急に教授が真剣な顔でこちらを見てくる。

「なんです、話したいことって。」

「実は私は癌にかかっていてね、もうそろそろ先は長くないようなのだよ、正直な所この実験は最後まで自分ひとりの力で完遂したかったのだが、いかんせん時間が無い、私は今までに7個のソレを発見している、後は5個ほどあれば実験には十分な量が集まるはずなのだが、体を薬で騙して動かすのも厳しくなってきてしまってな、老人の最期の頼みを聞いてくれてありがとう、本当に感謝している。」

こんないきさつを経て、私はおかしな代物を集めることが仕事になった、最初の1個を見つけるのに2週間、2個目、3個目と1ヶ月以内に見つけたのだが、4個目で2ヶ月ほど時間を食ってしまった。教授の残りの時間はまだ半年位はあると言うのだが衰弱してきてるのが眼に見えて来ているので心なしか急いで5つ目を探すことにした、それも今日集まった、明日教授にコレを渡して私の偽善的行動に幕を下ろそう、人生にはこんな不思議な事に付き合う機会がいくつかあっても私は何ら困らないし、むしろ喜んでいる。



夕飯を作り上げ、一人なのだが二人の食卓という矛盾した空間で食事を済ませてまた今日も眠れないまま朝を迎えるとしよう。



翌朝、早朝5時ちょっと過ぎ、さすがに暇を持て余している私はこんな時間から大学へ向かう事にした。教授は半分あの部屋で生活しているのでこの時間に行っても多分論文を読み漁っているか何かを書き続けていると思われる。
早朝の肌を刺して、だがすぐに癒していくまるでカマイタチのような空気の中をほとんど人が居ない道を歩いていく、早朝の散歩は気持ちがいい、だが今日は少し寒い。
20分も歩くと我が大学が見えてきて私は裏口から入り、教授のいる部屋へと向かう。


教授は相変わらず本だらけの部屋の中心にある机の上で何かを書き続けている、

「来たか、今日は随分と早いのだね。」

「昨日最後の1個が見つかったので善は急げと思いましてね。」

そう言って鞄の中から黒い箱を出して机の上へ置く。
教授は箱を部屋の奥にある金庫へと慎重に持って行き、そこへしまう。

「すまないな、君にはこんな事をつき合わせてしまって。」
なにか物悲しい顔をして私達に頭を下げる。

「やめてくださいよ教授、私達も同意の上でやってるんですから。」

苦笑いを浮かべながらそう返す

「それで、だ、私もそろそろ疲れてきたしまった、そしてアレも十分な量が集まった、まだ医者には余命は半年ほどあると言われているが、こんな痛みを味わい続けるのはこの老体には厳しいものになって来てしまってね。」

祈るように手を前で組んで言った。

「私は今週末に自殺してしまおうと思う、この事はあまり公言して欲しくは無い、君達に迷惑をかける気も無い、そして私が死んだところで困るような人間は私は知らない、大学側はいい厄介払いになったと思うだろうし、私に家族は居ない。」

「厄介払いなんて誰も思っていませんよ教授。」

「君には本当に感謝しているよ、この老人の戯言に付き合ってもらった上にこんな言葉もかけてくれた、私の死は気にしないで欲しい、ただ死ぬという現象が150日ほど早くなっただけの話だ。」

私は何も言えずに10分ほど部屋でコーヒーをご馳走になってから部屋を後にした。



教授は週末になり、文字通り消えてしまった。
実験の結果が教授自信の追い求めていた結果になったかどうかすらも判らない、ただ教授は誰にも迷惑をかけない方法で自らの命を絶った、その結果だけを私達は知っている。
2日ほどして警察が来たりしたのだが、証拠も糞も無いのだ、捜査のしようがなく3日ほど学校へ通った後にすぐ来なくなってしまった。
その後、私宛ての封筒が送られてきた、それには手記の切り取りが数枚入っていた。
内容はこんな感じだ。


19--年 

7月8日

私たちの認識している空間と言う物にも、わずかながら「ゆがみ」と言うものが存在する。
こう仮定すると、いくつかの不思議な事例の証明になる。
ではゆがみとはどんな様子で存在している物なのだ。


7月9日

神隠しなどは証明できる事が判明した。
神隠しについては紙の両端を考えればなんでもない事であった。
1枚の紙の角2つにしるしを付け、その2つを一瞬で移動するにはどうすればよいか、
簡単な事だ、紙を折ればいい。
ゆがみとは空間を折る事なのではないか。
ゆがみとはそんなに大きい物なのか。

7月10日

ゆがみを見つけて利用すれば一体どのようなことが出来るのだろう。
私はゆがみを見つけるために色々手を尽くしてみる事にした。


8月29日
構内で変人と呼ばれている若者へ話しを持ちかけてみた。
老人のたわごとと取られると思っていたのだが彼は私の言うことを真摯に聞いたくれていた。
そして実験の協力をしてくれる事になった。

19--年


1月8日

ついにゆがみを発見することに成功した。
私が最後に行き着いたのは古典的でナンセンスな方法であったが、発見してしまったのだ、何も言うまい。


4月11日

ゆがみについて現状把握

・ゆがみは人の多いところには見つからない
・ゆがみは円形の物と不安定なゆがんだ物が存在する
・円形の物については球に入る物ならそのまま入っていく、大きければ素通りする
・1つの大きさはあまり大きくはない、ソフトボールを一回り大きくしたような感じだ
・光を遮断した容器に入れると移動させることが可能
・2つのゆがみを合わせると大きな1つのゆがみになる、ゆがんだ物でも形は円形になる
・不安定なゆがんだ物は物質を削り取る。大きくても素通りはせず削り取られる

4月21日

円形のゆがみの中へ発信機を入れた所、数時間後、800kmほど離れた場所で発見された。
また、ハツカネズミに発信機を入れて円の中へ入れてみた所、同じような結果になった。
(ハツカネズミは死んだ状態で発見され、距離は100km~数万kmにおよんだ)
(数万kmの時には電波だけが送られてきた)

4月22日

先日の結果について、
ゆがみに入れる生物は必ず死んでしまうようだ。
発見された個体に裂傷などは一切無く、解剖してみたが理由は何もわからなかった。

9月5日

残念なことなのだが、私にはもうあまり時間が残っていないらしい。
病院へ行ったところ余命はいくばくも無いという事だ。
私は自らこのゆがみへ入り自殺を試みる事にしよう。
この実験へ協力してくれた彼へ感謝と謝罪を送る。



教授は何を伝えようと私にこの文章を送ったのだろうか、私の大学での思い出で一番強く、そして一生消える事の無い疑問を残して教授は消えてしまった。








また今日もどうしようも無いほど太陽は昇る上に、それにつられ朝が来るようだ。
そこには自分自身の力は関与できない、もし嫌なのであれば地下鉄で大勢に迷惑をかけて死んでいくなんて方法が一応存在する。別にビルから飛び降りても、首をつってもいい、何なら一人でどこかに篭城事件を起こせばもしかしたら狙撃してくれるかもしれない。
幸運なことに私達はまだ太陽が昇り朝が来る事が嫌なわけではない、日光を浴びるのは好きだが何故か太陽の光を浴びていると気分が滅入るのは私が日陰の住人かからだろう。そんな日陰の住人の私はこの世界に絶望したわけでもないのでまだ通勤ラッシュ時の地下鉄へ飛び込むことは今のところ無さそうだ。
そんなことをまどろみの中考えて27歳と少しの私は土曜日という日を迎えた。
教授が自殺を図ってからは特に大学でおかしなことも無く、気がついたら卒業していた。就職先も特に無かった私はあまり人に話せるような仕事はしていない、私は話しても気にしないのだが、聞いた方々は大抵は嫌悪を含んだ笑みを返してくるくらいの物、簡単に言えば娼夫だ。
私としては企業で働いても良かったのだが、ルールに縛られるのが好きではないMrの性格上どうせすぐ辞める事になるだろうと思い、それなりの生活が出来て、楽な仕事を探していたらこんな事になっていた訳である。
自分で言うのもなんだが容姿は悪くないらしい、女性と何度か付き合った事もある、しかし彼女達との性交渉において私はそこにあるはずの「良さ」みたいなものを見つけられなかった。
そこでまた気がついてみたら私は同性に興味を持っていた、この事で何度も悩んだが今ではこの様子である。
ちなみにMrは普通に女好きである、こちらもまた気がついてみたら隣で裸の女性が寝ていた事もある。



仕事は11時までにいつものホテルへ行かなくてはならない、このホテルへ泊まる人はそれだけお金が余っているのかと聞きたくなるようなホテルだ、金は無いよりは有るほうがいいが、有り過ぎるのもどうかと思うこともある。それくらい豪華で私の趣味ではないホテルだ。
今の相手はIT関係の仕事をしているという私よりも5歳ほど若い男性である。
自分より年下に抱かれるのはいささか抵抗があったが、最初の行為の時に彼はとても優しく抱いてくれた、その内容をここで赤裸々に公開しても良いのだが、誰もそんな話は聞きたくないので気にしないで流す事にしよう。
彼とは半年程この関係を続けている、週に1度彼に会い、体を開き、お金を頂く、とてもシンプルな関係である。
仕事はシンプルな方がいい、税金の計算何て面倒でやってられない事もある。
正直な話だが、もう少しお金に余裕が出来たらこの仕事も辞めてしまおうと思っている、「仕事」とは言っているがさすがにヒモのような生活を続けていくには傲慢さが少し足りない。
余裕が出来た分のお金の使い道は株に少し手を出してみようと思っている、やるのは私ではない、Mrの方だ。
Mrは株の取引に興味があるから少し金を工面してくれ、とだけ言っていたのだが大抵そうやって言うときは「やらせてくれ。」と遠まわしに言っている時である。別にお金は減っても良い、生活に苦しくなったらまたこの仕事を続ければ良いだけの話だ、それに半分は彼の体だ、ただ単純に主導権を私が握っているだけという事。


ぼーっとひたすらにコーヒーを飲んでいて、気がつくと時計の針はもう9時を回っていた。
仕事場へは大体1時間ほど歩いたら到着するので、まずはシャワーを浴びよう、後は身だしなみに気をつければいい。
今日の動きが決まった所でそれを実行する事にしよう、日常だ、何も問題は無い。
シャワーを念入りに浴びて、服装を整え、サボテンに水をやり、我が愛しの棲家から恐い恐い外へと出て行く。
後は目的地までひたすら歩く、歩く、歩く。
耳にはイヤーホン、ジャケットは暖かい、歩くために必要な物はこれだけあれば十分だ。
そしていつの間にかホテルへ到着する、いつもの部屋へと足を運び、目の前のドアをノックする。
さて、お仕事頑張りましょうか。



久々に表へ顔を出してみれば粋を理解していない豪華すぎるホテルの一室で裸で寝ていた。
いつもの事っちゃいつもの事だがどうにも腰が痛い、あいつはもう少し体を労わるべきだろ・・・・・・
辺りを見回して、小洒落たハンカチに包まれている金を発見する、「ひーふーみーってこの体にこんなに価値あんのかよ」
とりあえずそれをズボンに捻じ込みこんな場所からはさっさとご退室願おう、その前にそこに置いてある高そうな果物は食ってっても文句はねぇだろ。

久々の肉体は相も変わらずに動いてくれる、だが体を動かしてると言っても何もする事も無い、そこら辺をぶらぶら怪しい人やってからさ

っさと帰ってしまおう、それが1番良い、だがその前に酒が飲みたいんでコンビニでビールでも買う事にしよう。
とまぁ怪しい人やりながら近くのコンビニへの近道である路地裏を通ろうと足と目を向けてみるとこれがどうだ、なんとも麗しい格好で少

女がうずくまってるではないか、こういった手合いは見なかった振りをして別の道へ行くのが普通だ、だが俺は一般的に変人と呼ばれる人種だ、こんな面白そうな事を見逃すわけには行かない、運がよければキャッキャウフフな展開が望めるかもしれねぇ。

「そこでうずくまってるお嬢ちゃん、どうしたんだい?変な薬でもキメすぎて体にガタでもきた・・の・・・」

「まてまてまてまて、お嬢ちゃん、待て待て、その捕食者的な眼はいったい何なんだい、この場合俺が捕食される哀れな生贄?」

「そういうことになるかな?あなたも運が無い人ねぇ、見てみない振りをしてればこんな事にならなくてすんだのに、まあとりあえず我慢できないのでイタダキマース。」





「ゴチソウサマ。」








情事の後は何故か寝てしまう、そんな体質の私はまぶたを閉じたまま意識を覚醒させている真っ最中である。
どうにも頭が痛い、そして体の節々も痛い、この際目をつぶったままこのまま寝てしまおうか、それとも起きるべきか。
現在の脳内内閣の議題はこれらしい、ダラダラと曖昧な意識を味わっていると不意にコーヒー匂いがしてきた。
この匂いだとなかなか深炒りの良い物みたいだな、コーヒーは深炒りに限る。
待て、何か違和感があるぞ、確か彼はコーヒーではなく紅茶しか飲まないはずだ。
その前に今ここはホテルなのか、この寝ている感じだとホテルの柔らかなベッドとは似ても似つかない感触なのだが、そして彼は今いるのか、それとも帰ってしまったのだろうか。
とりあえず現状を確認するべく目をこじ開ける、白熱灯の光が眩しい、いつも見慣れている自分の家の天井が広がっている、場所は把握した、ここは我が棲家だ。次はこのコーヒーの匂いの主の確認か。

覚醒しきらない意識の中、居間へ移動する、目の前にはいつものテーブル、いつもの机、問題はその机に見知らぬ少女がコーヒーを飲みながら座っている事だ。

「おはよう。」

と少女が私に挨拶をくれるが、私はどんな反応を返せばいいのかわからず黙ってしまう。

「勝手に台所借りてコーヒー飲んでるけどいいわよね。」

一体何がどうなってるんだ、仕事が終わって寝ていたら、いつの間にか自分の家にいて、居間ではドレスを着た少女がコーヒーを飲んでいる、しかも何処からか私の秘蔵のチョコを引っ張り出して。

「すまないが、何故君はここにいるんだ。」

我ながらひどい質問である、とりあえず少し時間が欲しいところだ。

「何言ってるの、貴方が昨日私を連れてきたんでしょ。」

予想できた答えだ、多分Mrの仕業である、だが彼が年下も守備範囲だったとは知らなかった、とりあえず事の真相を聞いてみよう。

「少し待ってもらえるか、いま思い出す。」

そう言ってMrに声をかける、が返事は返ってこない、私の脳内には彼女の事は一切記憶されていない事から考えるとMrがやったとしか思えないが今何をしているんだMrは。

「ああ、なるほど、今の貴方がMrの言ってたもう一人ね。」

まて、どういうことだ今彼女はもう一人と言った、何故私達の事を彼女は知っているのだ、あの野郎がうっかり口を滑らしたとは思えないが、今はそれしか可能性が考えられない。

「もう一人、とはどういう意味なんだ。」

とりあえず判らない振りをしているのが1番だと判断する。

「だって貴方が言っていたんじゃない、俺にはもう一人中にいるって。」

それをそのまま信じる少女も少女だが、それを説明するMrもMrだ、別に話しても良いがせめて私にも何か一言は欲しい、さっさと出て来いこの野郎。
一人問答を繰り返していると少女はこちらへ来て私の手を取り、握手をして、素晴らしい笑顔でこう告げた。

「今日からお世話になるのでよろしくね。」

私の人生で奇妙な共同生活になるのはこれで2度目だ、2度あることは3度無い事だけを祈ってしまいたくなる。
Mrが何を言ったのか知らないがそこの少女はこの家に住み着くのはもう確定している事なのだろう。


少女は一言で言えば「不思議」だった、世間一般に馴染むなんて言葉が虚しくなるほどに不思議であった、いつのまにか家に猫が住み着いていたり、あやうく家の前がカラス達の溜まり場になりそうにもなり、容姿は綺麗なはずなのに、どこか野良猫のような感じがしてしまう、野生動物といってもいいかもしれない。
私に結構話しかけてくるのだが話をしているとお嬢様敵な見た目から受ける印象とはかなり違った印象を受けた、どこか悟っている感じとでも言うのだろうか。
彼女は何をするでもなく家でゴロゴロして、気が向くと外へ出て行き、必ず夕飯までには帰ってきた。
たまには自分で料理を作ると言い、こちらもお嬢様的な見た目とは裏腹にとても器用に料理を作り上げたりした、そして必ず食後には甘い物が出た、ここまでは歓迎なのだが片付けは私がやらされたのは少し頂けない。
しかし、私は彼女には嫌悪感などは一切感じなかった、一般的には妹や娘などに向ける愛情と言われる感情が沸いていたのかもしれない。
帰ってきて誰かが待っている、というのも案外悪くは無い。
そんなわけで少女が私のところに棲み付いて2週間、そろそろ少女が居るという事にも慣れてきてしまい、何も問題は無いはずなのだが、何とも言えない違和感が私の周りにまとわりついてきている。
とても大切な事を思い出したいのに思い出せない、そんな違和感だが、分からない事を悩んでいても時間と精神の無駄なので気にしない事にして居間に向かう。
相変わらず彼女はソファーで寝ている、私が少女を見るのは居間のソファーで寝ている時が1番多いかもしれない。
Mrが表に出ているときは俺もこんな感じなのかもなとふと思った、あいつなら多分ゴロゴロしている、いやきっとゴロゴロしている。
苦笑いをしながら昼の食事の準備をしようと冷蔵庫を覗いてみたが、残念ながら材料はほとんど残っていなかった。

「これじゃあふたり分は無理か・・・・・・。」

そう呟いて買出しに行こうと思い振り向くと、居間で寝ていた彼女がこっちを見ている、どう見ても尋常じゃない瞳で見ている。
野生の肉食動物が空腹で死にそうなときに目の前に簡単に食べられる餌を見つけた、私の少ないボキャブラリーの中ではそう形容するのが1番近いと思う、そんな目で見つめられている俺は明らかに餌だ。

「イタダキマス。」

少女はそれだけ言って私に飛び掛っていた。
目の前が彼女で覆われ視界は暗転する、何かを折っているような音が聞こえる、なぜか体を動かそうとする気も起きなかった。
ゴリゴリ、バキバキ、グチャグチャ、B級ホラーで使われる擬音のオンパレードがしばらく行進を行い、急に足を止めた。

「ゴチソウサマ。」

視界にいつもの日常が戻ってくる、いつもの台所、いつもの天井、口の周りが血で濡れている少女。
いつもの瞳で私を見ている血まみれの少女、視線は主に私の左腕に向けられている、その視線を追うように私も視線を向ける。
案の定の結果だ、肩とひじの丁度真ん中付近から左腕は消えている、そして左腕だったものは彼女の胃の中に納まっているだろう。
さて、ここで不思議なことは3つある、彼女は何故私の左腕を食べたか、左手を食われても痛みを感じていないのは何故だ、そして何よりも何故私はこんなにも冷静でいられるんだ。
台所で仰向けで悩んでいてもしょうがないので右手でバランスをとって立ち上がる、やはり左腕だった場所に痛みは無く血もあまり出ていない、むしろ止まり始めている、彼女はただ黙って私を見ている。
多少の沈黙の後に私から切り出した、

「これ、なんとかなるのか。」

我ながらユーモアセンスに富んだ会心の一言だと思ったのだが、彼女からの返答はかなり冷めていたものだ、この状況を打破するためには多少なりとも笑いがあった方がいいと思ったんだが。

「やっぱり貴方、この前の事忘れていたのね。」

冷め切ったお嬢様は心底呆れているご様子だ。

「この前っていうと何時の事だい、私の人生で誰かに左手を食われたのはまだ今回が初めてだと思うんだけど。」

「貴方がホテルから帰っていた時の事よ。」

そう言って面倒くさそうにソファーのところまで歩いていくと、Mrがホテルから帰っている途中で路地裏にいる彼女を見つけて声をかけたというあの野郎らしい話を淡々と聞かされた。
今まさにあったような惨劇が繰り広げられ、私の体の7割くらいを平らげて、証拠を隠そうと私――の3割ほど――を担いで森にでも捨てようとビルの間をスパイダーマンしていると、背中で私がもぞもぞと再生して生き返っていた、説明は以上で終了らしい。簡潔すぎる。信じられるはずがない。
自分が変人だとは認めるが、一応まだ基本は一般人の私、この突っ込みどころ満載の状況でどう突っ込みを返せばよいのだろう。
そしてこのB級映画でもあまり見なくなった展開を聞かされてる間に私の左腕は元通りになってきている。
さすがにそろそろ情報処理能力が追いつかなくなってきたよ。

「ああ、言い忘れてたけどこの場所はMrだかが覚えていたのでつれて来たわよ。」

そういや最近相方が出てこないがいったいどうしたんだと考えた瞬間に。

「ちなみに、相方さんは貴方を初めて食べたときに私の中にきちゃったみたいだから、貴方の相方の記憶も少しはあるわよ。」

と衝撃の告白。プライバシー筒抜け宣言。心が読めるのかこの少女は。

「まてまてまて、落ち着け俺、俺を食べて相方がそっちに行ったってどういうことだ。」

「貴方もMrと同じような反応するのね、文字通りの意味で貴方の相方さんが今は私の中にいるってこと、人格的にはあなたみたいに2人じゃなくて私に統合されてるけど。」

「人を食って人格が移動するなんておかしいだろ、蛋白質に記憶があるっていうのか?そしてそれを食ったからって吸収できるものじゃないだろ。」

「んー、なんて言えばいいのかなぁ、人間の脳で記憶とかを伝達してるのは電気信号でしょ、私が食べてるのは栄養的な意味での蛋白質、後はヘモグロビンを体内に入れるため、私は普通の体と違って同種族を食べないと死んでしまうのよ、そのときに電気の信号も吸収してしまうらしいし。だから貴方を食べたときにちょうどいた相方の方の記憶を吸収しちゃって、今のところは貴方に相方さんを形成するだけの記憶が無いだけだと私は思うけど、後は糖分も人並み以上に必要ね。」

彼女の言っている意味は理解できなくもない、腐っても生物分野はこっちの専門である。MrがいないのはMrを作るだけの記憶が無いから、物心つくっていう事は自我を認識するだけの情報、つまり記憶がないと駄目だからだ。彼女が人を食べる理由も理解はできる、カバなんかは体内の細菌を子供に渡すために糞を食わせるらしいし。だけどこの説明では全然触れていない部分もある。

「ところでなんで俺は死んでないんだ、後痛みも感じてないし、食われた腕はもうそろそろ完全に再生するぞ。」

1番重要な事を説明していない、と言うか本当になんでこんな事になってるんだ。

「それがわからないからわかる医者の所へ連れて行こうと思ってたんだけど、面倒なんで放置していたわよ、説明も面倒だったし、実際体験したほうがよっぽどわかりやすいでしょ?、百聞は一見にしかずって言うしね。」

とりあえず医者の所へ行くのは確定しているらしい、それと、わかりやすいがいきなり腕を食いちぎるのはどうかと思う、色々諦めてとりあえず医者とやらのところへさっさと行って、自分に何起こってるのか聞かないとどうしようもない。

「まあ、さっさとその医者とやらのところへ連れてっt、痛ッ!」

腕から猛烈に痛みが襲ってくる、腕を見ると完全に元の状態に戻っているが正に今食べられているような痛みが脳へ叩き付けられている。

「一体何だコレは、痛い痛い痛い!」

あ、そろそろ意識さんが痛みさんに降伏宣言をしそうである。


ほら、もう痛くない。










猛烈な痛みさんの攻撃に意識さんがノックアウトされてやっと目を覚ましたらそこは雪国ではなく真っ白い病院の中だった、目の前に移るのは手術台の上にある大掛かりなライト、そして視界の隅にいる少女。
残念ながら悪夢とかで済まされる話ではないようだ。本当に残念だ。
少女は私の意識があることに気がついたらしく。
「意識ははっきりしてるわよね。」
と私の意見はほったらかしで話を進めるつもり満々らしい、体を起こして話を聞くことにする、何時の間に患者用の物の思われる服に着替えていたのだろうなどという疑問は触れるなという事らしい。

「とりあえずまた説明だけれども、ご察しの通りここが話てた医者の所ね、医者を紹介するけどあんまり驚かないように、とても、悪趣味な人だから。」

「悪趣味とは失礼だなぁ。」

頭上で声がする、とても嫌な予感がするのだがここは上を向かなければならないのだろう。後悔するだろうけど。上を向く。

「やあ、こんばんわ。」

頭上で挨拶をされる。ああ後悔してる。もう後悔してる。彼女が言った悪趣味という意味もよく理解できる。
なんで上半身は普通の人間なのに下半身が蜘蛛なんだよ。普通の人には会えないのか俺は。

「あー、こんばんわ、もしかしなくても貴方が医者ですか。」

白衣を着た半分蜘蛛人間に本当にどうでもいい返事を返す。

「お、珍しいな、私を見て感動しない人は。」

把握した、こいつは自分の姿を最高に素晴らしいものだと思っている。昆虫マニアとかそこらへんだ、間違いない、自分の姿に感動するなんて言葉を吐く奴にろくな奴は居ないって前世でおばあ様が言っていた気がするよ。

「いいからとりあえず症状について説明をしたら、私もさっさと帰りたいんだから。」

彼女の横槍が入る、私も心の底から速く帰りたいと望んでいる、この場所に居続けたら大量の突っ込みを入れなくてはならない展開になりそうだ。

「君の症状について、というか我々は能力と定義してるものなんだがね、まあ簡単に言えば君は不老不死だよ、文字通り死なないし老いない、発動条件は特に無し、今のところは再生後に痛みを感じる、細胞を調べてみたが癌細胞に近い物のようだ、永遠に再生し続けるし統制が取れてるあたり癌細胞とは違うが基本的には同じような物だ、ただし再生にはエネルギーは必要なのでどこからか集めているらしいね、私の愛しい妻からはそう聞いているよ、電気エネルギーらしいのだが人間の持っているエネルギーも吸収してしまうらしい、まあ簡単に言えば脳内の電気信号なんかを引っ張ってきてるらしいね、そこの彼女と同じだとすると他人の記憶も一緒に持ってきて吸収するとは思うんだがね、後は私の妻の話だと全身が完璧に消失してしまっても細胞が1つでもあれば再生は可能だとか、おめでとう!君は人類の夢をかなえたことになるよ!まあ私はそんなもの興味は無いがね。半分人類じゃないし。」

まさにマシンガントーク、息もつかせない間に説明終了、俺は不老不死者になったらしい、どうしろと言うのだねこの半分人類じゃない医者さん。

「あ、言い忘れていたが君を診断したのは私の妻ね、私は過程を調べることと体をいじるのが仕事、ちなみに服を気がさせたのも私の妻ね、血まみれだったんで一応まとめて置いてあるから。」

「あ、どうもありがとうございますしゃなくて、診断したっていったいどうやってそんなわけのわからないことを調べたんですか、あと貴方の体もなんなんですかそれは。」

当然の疑問だろ。

「診断については私の妻の能力だよ、絶対的直感力、A=B、B=C、よってA=Cじゃなくて最初からA=Cが判るのね、まあ正確には直観力は先天性の物であって能力はまた別にあったりするんだがね、まあそこらへんは今は関係の無いことだ、それにしても私の体に目をつけるとは君もなかなかやるね、これについては私の能力を使ったまでだよ、DNAを自由にいじれるのが私の能力、人間の設計図の書き換えを行えるだけの能力だから別に凄いことでもない、一応普通の人ならば体をいじることが可能だけど君達みたいな能力発言者にはどうもやれないみたいでね。」

やはりマシンガントーク、理解できてしまっている自分が悔しい、その前に能力ってなんだよ能力って。

「さて、説明はここまでだ、詳しいことについてはそこの少女ちゃんに聞いておいてくれ。」

頭上を半分人類止めてる人が去っていく、他にも患者がいるのだろうか、結構急いでいる様子だ、こんな所であんな医者の手に掛かっているとは何とも同情をしてしまう。
で、一難去ってまた一難、いきなり貴方は不老不死ですよと宣言された私はどうしたらいいというのだろうか。後は首が痛い。
どうしようもない思考が脳内を這いずり回っていると目の前に居る少女ちゃんが話し始めた。

「一応あの変態医師とも話してみたんだけど、私の食人行為の事もあるし、貴方もMrには戻ってきて欲しいでしょ?医者の話だと一緒に暮らしていれば放置していれば戻るって話だからこの2週間みたいに一緒に暮らせると嬉しいんだけど、貴方はどうなのかしら。」

「あーあーあーあー。」

思考にまとまりが見られない、とりあえず何か口から言葉を発しておく、数秒考えてみたが断る理由も無いので。

「わかった、別に構わない。」

と言った後に気がついた事がある、私は食われるたびにまたあの痛みを味わうのだと、だがいまさら後悔しても遅い。

「とりあえずだが、棲む所はいままでのあそこでいいんだよな?」

「そのこと何だけど、あの医者が『一般人と一緒に居ると体調を崩させるのであまり人が居るところにはいないほうがいい。』とか言ってて、『偶然だが、私のところにいい物件が入っていてね、店主が自殺して今は使われていない喫茶店なんだがそこを紹介してあげよう、立地条件君達にとっては最高!人通りはほとんど無し!経営には最悪!』だってさ。」

私としてはただの確認事項のはずだったのだがまさかの展開に唖然とする。幽霊が繁殖行動を起こしそうなくらい胡散臭い物件に棲めと言うのかあの医者は、しかも理由は普通の人は私が居ると危ないからと来たものだ、まだ一応思考は一般人で自称偽善者の私はどうにも断れない。

「それじゃ、さっさと新しい住処見に行くわよ、善は急げって言うんでしょ?」

完璧に流れに飲み込まれて流されるが反論するほどの元気も無い私はとりあえずついていくことにして、病院のあからさまに怪しい通路を通り外へ向かう、通路でこの病院が大学病院並みに広いことに驚かされる、途中で断末魔のようなものや何かブツブツ言っているのが聞こえるが自分に何も聞いていないと言い聞かせながら歩いていった、ただでさえ情報処理能力以上の情報を叩き込まれてオーバーヒート寸前なのだ、ここで気にしていたら完璧に壊れてしまう可能性がある。

なんとか外に出てみると外は薄明るい、多分早朝なのだろう、昼に倒れてから半日寝込んでた訳だ私は、周りは寂れた商店街、いままで自分の居た病院はというと、どうみても診療所程度の規模である、どうやればあの規模の施設を中に放り込んでおけるんだと思ったが地下かなんかだろうと勝手に結論付けてしまおう。
うなだれていると自分よりも一回り以上小さい少女ちゃんに抱きかかえられる。

「そんなに遠くないし、この時間なら見つかる心配もそんなに無いから跳んでいくわよ。」

何を言ってるんだと言おうとして「な」が出た辺りでもう空中5mほどまでに跳んでいた、もう色々諦めてとりあえず到着するまで彼女に体を任せておく、別に落ちても俺は死なないんだという諦めに限りなく近い開き直りのおかげでなんとかまだ元気である。


結構な間、建物から建物へスパイダーマンを繰り広げた後に、

「ああ、ここらしいわね。」

と言って彼女が私を解放してくれた、彼女は息ひとつ切らしていない、私は冷や汗でも掻いたほうが本来は良いのだろうがもはやそれすらも面倒になって来ている。
で、目の前にある私達が棲むことになる建物らしい、周りは完璧なシャッター街、生活の気配が微塵も感じられない。
目の前の建物に話を戻そう。ああ。うん。廃屋だ。どう見ても廃屋だ。
これを廃屋と言わずに何を廃屋と言うのであろうと言うほどに廃屋である。

2階建てで木造建築、扉は壊れていて、窓ももちろん全て割れている、中はゴミの山と化していて、まだこの付近が活気があったころにはカフェなどとして機能していた跡だけはなんとか確認はできたが今では見る影もない。

「これはさすがにひどいだろう・・・・・・」

少女ちゃんはと言えば屋根に跳んでそこから中を確認しているが屋根も所々陥没している。
まず始めなくてはいけない事はこの廃屋をなんとか棲めるようにしなくてはならない事だ。
次は喫茶店でも経営してくれようじゃないか、この建物を譲渡してくれた医者からの挑戦状として受け取ろう、それほどこれはひどい。
死ぬまで働いても俺は死なないんだという諦めに限りなく近い開き直りのおかげでなんとかまだ元気である。

「とりあえずコレは片付けなくちゃならないよな・・・・・・」

「そうみたいね、まあ二人なら今日中には終わるでしょ、なんせ不死の方がいるんですから死ぬまで働いてもらってもまだ働けるからね。」




本当に素晴らしい笑顔である。
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